順天堂大学医学部第二解剖 松本 明 GnRH NEURONS: GENE TO BEHAVIOR. I.S.Parhar and Y. Sakuma Eds., BRAIN SHUPPAN, 1997, 486 pp, ISBN4-89242-140-5, 19,000円+税 G.W.Harrisは1950年代になって、下垂体前葉ホルモンの分泌機能を調節する物 質が視床下部に存在することを予測した。これは前葉ホルモンの放出を促進したり抑 制をするので放出ホルモン、放出抑制ホルモンと呼ばれ、1971年にR. Guillemin とA.V.Schallyが独立に生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH、黄体形成ホルモン 放出ホルモンLHRHともいう)を抽出し、化学構造を決定した。その後、この二人には ノーベル賞が贈られたが、この抽出劇で凄まじい闘いが演じられたことは夙に有名な 話である。その後の研究も交えてGnRHは生殖神経内分泌現象の中心的役割を果たして きた。 一方、M. Schwanzel-Fukudaと D.W.Pfaffは1989年にGnRHニューロンが鼻プラコ ードから発生し脳内に移動するという従来の神経発生の常識を覆す発見をし、GnRHは 再び神経科学の桧舞台に躍り出ることとなった。 本書はこのような背景を持つGnRHニューロンの研究成果をParhar博士と佐久間康夫 教授によって編集されたもので、副題のGENE TO BEHAVIORが示すようにGnRHの遺伝子 解析から行動までGnRHの広範囲の研究成果が紹介されている。第1部はGnRH Molecul es and Receptors, 第2部はOntogeny and Distribution, 第3部はCellular and Mo lecular Physiology, 第4部はClinical Implicationより成り、いづれも各分野での 研究の第一線にたつ国内外の研究者が自身の研究を踏まえて説得力のある総説を展開 している。哺乳類以外の脊椎動物のGnRH研究の記載も多く、GnRHを進化の面から考察 している章のあることも本書の特徴の一つである。本書はGnRHニューロンの現時点で の研究成果を知り、この分野の研究の将来を展望するのに格好の書であるといえよう 。また、国際貢献を要求される今日において、このような書物が日本の出版社から出 版されたことは意義深いものがあると思われる。